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自然に人を動かし社会課題の解決に導く行動デザイン
先日、ネットカフェに出かけたときのこと。
店内の書棚を何気なく眺めていると、あることに気づきました。
あるコミックの背表紙の装丁が、
1巻から最終巻まで連動するようにデザインされていたのです。
ユーザーの目を引くそのビジュアルには、ある明確な意図がありました。
それは“書棚の整理整頓”。
読み終わった人が、本を自然に正しい位置に戻すように 促す仕掛けになっているのです。
なぜなら、順番通りに並んでいないと全体の絵柄が崩れ、気持ち悪いから。
こうした、ちょっとした仕掛けで人を動かすコミュニケーション術は、
実は街のあちこちで展開されています。
例えば、レジ待ちの列を整然とさせる足跡マーク、
消費カロリーの目安が書かれた駅の階段…。
具体的なメッセージを発しているわけではないのに、
想定する行動へと多くの人を自然と導く仕掛けです。
この「行動デザイン」が、今回のテーマ。
人に行動を起こさせるコミュニケーションの手法を、
アートディレクターの山本と一緒に考えていきましょう。
この記事は、名古屋でブランディングをおこなっているトガルがお伝えします。
01
“思わぬ行動”にはワケがある
チャルディーニの6つの法則
マーケティング分野で活用されている「チャルディーニの法則」。アメリカの社会心理学者ロバート・B・チャルディーニが提唱した、人の行動に影響を与える心理法則です。人間の習性をもとに、心理と行動の関係を6つのパターンに分類しています。これを軸に仕掛けのトリガーを考えると、行動変容を促しやすく、行動デザインがしやすいと思います。人はどんな心理が働くと、行動を起こすのか。6つの法則と活用事例を見てみましょう。
1 返報性
何かをもらったり、してもらったりしたら、お返しをしたいという心理。
人は、親切に対して何も返さずにいることを「気まずい」と感じる。
【活用事例】
・スーパーやデパ地下の試食
・新商品のサンプリング
→「もらったのだから買わないと悪い」という心理が働き購買につながる。
2 一貫性
自分自身の発言や行動、価値観などを一貫したものにしたいという心理。
【活用事例】
・通販の「初回お試し」「定期コース」
→「トライアル商品を購入するのは真剣に検討しているから」「定期コースを続けて健康維持する」など、継続的な購入を顧客自身が無意識のうちに正当化し、行動に移す。
3 社会的証明
大多数の意見に流されやすいという心理。
人は何かを選択したり決断したりするとき、他人の行動の影響を受けやすい。
【活用事例】
・アンケート、レビュー
→アンケート結果や購入者の評価を数値で示す。「多くの人が選んでいる」ことが購入の動機になる。
4 好意
親しい人や好意を抱いている人の要求に応えたいという心理。
特に、「自分に似ている」「自分を褒めてくれる」「同じゴールを目指す仲間である」人に好意を抱きやすい。
【活用事例】
・SNS投稿
→友人や、フォローしているインスタグラマーなど、好きな人・趣味や嗜好が合う人が勧める商品を購入する。
5 権威
自分より立場が上の人、権力や肩書きを持つ人の言動に従うという心理。
好き嫌いに関わらず、社会的地位の高い人のことは信用しやすい。
【活用事例】
・「医師が考案」「ホテルシェフ監修」等の表記
→商品やサービスの開発に関わる人、また勧める人の社会的地位が高いとブランド価値が高まり、選択につながる。
6 希少性
残り少ないものを欲しいと感じる心理。
入手困難な商品、数量や購入期間が限定された商品を「手に入れたい」と考える。
【活用事例】
・限定モデルの発売
・「残り○個」「あと1時間で受付終了」等の表記
→「自分だけ」という特別感、「機会を逃したくない」という焦燥感が、購入につながる。
人の行動を促すには、心理を読み解くことが非常に重要です。この6つの法則には「選択」につながるものが多いため、販促や広告コミュニケーションに活用しやすいと思います。
02
無理強いしない行動の仕掛けづくり
“結果論的”課題解決で行動デザインを
社会課題の解決にも「行動のデザイン」は有効です。例えば、2022年に西鉄福岡(天神)駅で実施された、ピアノの鍵盤に見立てた駅の階段の行動デザイン。階段を上り下りすると音が奏でられる仕掛けを施しい、利用者の運動不足解消を目指します。結果的に、エスカレーターの混雑解消にもつながるでしょう。もうひとつ、よく知られているのが男性用トイレのシールです。的として利用者に狙わせることで、飛び散りを防ぐ効果があります。ここでポイントになるのが、利用者は普段通りの行動をしていることだと思います。特に「頑張って階段を上ろう」とか「トイレをきれいに使おう」という意識を持たず、むしろゲームのように楽しんで利用しているはずです課題を解決するために、その場にポスターを掲示して啓蒙するのもひとつの手ですが、正論で忠告されても人はなかなか動きませんよね。問題を直接解決しようとせず、結果的に解決につながる導線を作ることで、自然な行動を誘発する。それが行動デザインなのです。
ほかの事例も見てみましょう。
【投票型喫煙所】
投票ボックス型の灰皿に、二者択一の質問を記載。利用者は、吸い終わったタバコを“票”として、どちらか一方に投じる。
↓
渋谷で実証実験をおこなったところ、吸い殻のポイ捨てを約9割削減できたそうです。
吸い殻を処理する行為が、“投票”というゲーム性のある楽しい行為に変わりました。話題性もあり、設置スポットや地域のアピールにもつながりそうです。質問の内容によって、広告的なアプローチもできるかもしれません。
【メロディーライン】
溝が刻まれた道路の上を車が一定の速度で走行すると、路面で発生する音が車内に反響してメロディーとして聞こえる。
↓
これも“事故防止”という社会課題の解決を目的とした仕掛けです。速度を保たないとメロディーが聞こえないため、ドライバーは自然とスピードを落とします。また、その土地にちなんだ音楽やヒットソングを用いることで、地域のイメージアップや観光誘致につながるかもしれません。
03
行動をより起こしやすくするには
鍵は“取り付きやすさ”
いくら「ゲーム性があって楽しい」「結果的に社会のためになる」ものでも、行動する際の負担が大きいと多くの人の共感は得られません。行動デザインにおいては、「簡単」「短時間で済む」「費用がかからない」といった“取り付きやすさ”も大事なポイントです。少しでも「面倒だな」と感じると行動に移せない。これは、誰にも共通することですよね。
【取り付きやすさチェック】
行動を変えられない仕掛け
□ルールが複雑
□10分以上かかる
□費用がかかる
□人目が気になる
□行動するか考える必要がある など
04
行動デザインで企業ブランディング
声高なメッセージより人が動く仕掛け
2021年、メキシコのビールブランド・コロナビールが “Plastic Fishing Tournament”を開催しました。海洋プラスチックごみの釣果を競う釣り大会です。漁場汚染に悩む漁師たちにプラごみを釣ってもらい、獲得量に応じて賞金を授与。これにより大量のゴミ削減ができたそうです。また、回収したプラごみはリサイクル会社と共有し新たな釣り道具へと再生。さらに、大会後もプラごみの回収を継続し、漁師が副収入を得られる仕組みをつくりました。
ところで、瓶や缶を商品パッケージとするビール会社が、なぜプラごみ削減に取り組んだのでしょうか?それは、自社商品を“リゾートビール”と位置付け、コロナビール=ビーチというブランドイメージを醸成してきたからです。一見、商品やサービスと関係なさそうな領域での取り組みが、社会の課題解決に大きく貢献している。しかも声高なメッセージを発信するのでなく、行動デザインにより人を自然に動かして。これは、いわゆる企業広告キャンペーンなどより、よほど効果的なブランディング手法ともいえると思います。
行動デザインを企画の選択肢に
行動デザインを取り入れた社会課題解決の取り組みは、すぐに結果が出るものではありません。ユーザーの能動的な行動を継続させ、意識や習慣を自然と根づかせる。そんな長期的視野が必要だと思います。その上で、行動デザインを企画の選択肢のひとつにしておくと、提案の幅も広がるのではないでしょうか。
- ・人を動かす法則を知る
- ・行動を無理強いしない仕掛けづくり
- ・取り付きやすさを工夫する
- ・社会課題の解決は長期的視野で
- ・企業ブランディングにも効果的
「法則を知る」「無理強いしない」「取り付きやすく」を基本に人を動かす、行動デザイン。これを社会課題とつなげると、誰もが楽しみながら得をするポジティブな取り組みが実現できそうです。デジタルとリアルを融合させれば、できることも広がるはず。行動デザインの考え方や手法をうまく取り入れ、課題解決が自然と生まれるコミュニケーションを実践していきましょう。
名古屋で「ブランディング」ならトガル株式会社へ
企画・構成・編集:しょうちゃん/執筆:稲葉