Z世代の視点を取り入れ、メディアの新たな繋がりを創出する。
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なぜZ世代はあえて手間をかける非効率な体験を好むのか
インターネットや物流の発達、そしてAIの発展により、私たちは日々たくさんの“便利”や“効率”に囲まれて暮らしています。一方で、そんな効率化の波に逆行するように、Z世代の間に「あえて非効率で不便な体験の価値に目を向ける」という考えが注目されつつあるのをご存知でしょうか?
今回はこの「非効率な体験」に着目し、Z世代に刺さる新たな体験とは何かをZ世代の筆者の目線から迫っていこうと思います!
この記事は、名古屋でSNS運営を行っているトガルがお伝えします。
01
Z世代にとっての「効率」と「非効率」とは?
一般的に「効率」は良いこと、「非効率」は悪いことだというイメージがあると思います。ではZ世代にとって価値を持つ“非効率な体験”というのはどのようなものなのでしょうか?
そもそも効率や便利とは?というところから解説していきます!
Z世代にとって、便利なモノをすぐに手に入れるのが「当たり前」
私たちZ世代は、幼い頃から便利な物に囲まれて育ってきました。物心ついたときからインターネットがそばにあり、洗濯もご飯を炊くのもボタン1つでできる家電を使うのが当たり前。
そして最近では、その便利なモノをスマートフォン上の操作だけで簡単に手に入れられるようになり、さらに精度の高いアルゴリズムによって自分の趣味嗜好に合う情報が届くようになりました。
スマートフォンを見ていて、おすすめで出てきた商品をそのまま購入し、次の日にはもう届いて使っているという体験って、今では当たり前のことですよね。これこそが、私たちZ世代が幼い頃から享受し、さらにどんどん進化していっている“便利”や“効率”です。「不便だったものが、○○が登場したおかげで便利になった」というより、「もともと便利だったのが、さらに便利に、しかも簡単にできるようになっている」ということですね。
Z世代を惹きつける「非効率な体験」
では、便利と効率を当たり前に使いこなすZ世代が好む「非効率な体験」とはどのようなものなのでしょうか?例をあげてみていきましょう。
例えば新幹線や飛行機ではなく、わざわざ在来線、バスを乗り継いで行く旅行体験が挙げられます。新幹線に乗れば一直線に目的地に到着するのが“当たり前”。そんな効率的で便利な当たり前を捨てて、あえて電車やバスを乗り継ぐという非効率旅だからこそ出会える、車窓から眺める景色や、途中下車して散策した街などの新たな体験を、私たちZ世代は求めているのです。
もう1つの例は「レコード」
実はZ世代の間で今、レコードブームが到来しているんです!YouTubeでいくらでも音楽を聴けるのが当たり前の時代に、あえてレコードを楽しむという音楽体験も“非効率”を求める体験の1つといえるでしょう。レコードに針を落として音楽を聴くという手間のかかる行為そのものはもちろん、レコードショップに行ってレコードを漁る中で自分の従来の好みとはかけ離れた一曲に出会うといった体験もZ世代を惹きつけています。
このようにZ世代が好む非効率な体験というのは、既に効率化された体験を当たり前に享受しているにも関わらず、その外側にある非効率をあえて選ぶ、という点にポイントがあるといえます。これがはじめから非効率な選択肢しか残されていない場合だとまた違うんですね。効率とセットになった非効率な体験に価値があるといえるでしょう。
02
Z世代が非効率な体験を求める理由
例にあげたような非効率な体験に、私たちZ世代はなぜ惹きつけられるのでしょうか。誤解されがちなのが、昭和レトロや平成レトロのような“エモさ”を求めているからなのでは?ということ。もちろんノスタルジックなものに魅力を感じる感覚もあるのですが、決してそれだけではないんです。
ここでは、便利・効率が当たり前の時代を生きているZ世代だからこそ惹かれる、“非効率な体験”に秘められた魅力を深~く掘り下げていきます。
非効率な体験からしか得られない「満足」と「安心」
一見いいことばかりのように見える便利や効率化の流れですが、そこに身をゆだねることに対して物足りなさや不安を感じる、というのが近年のZ世代に特徴的な価値観です。
便利なのはラクではあるのですが、多くの人が同じ最短ルートを通って何かにアクセスするということでもあるので、似通った体験ばかりになりがちです。例えば先ほどの新幹線で行く旅行でいえば、そこに乗っている人はせいぜい座席の違いくらいで、皆同じ体験をしているわけです。そこに物足りなさを感じてしまうんですね。
さらに便利で効率的になることは、目的に至るまでの工程がブラックボックス化される不安を伴うことでもあります。例えば普段何気なくしているネット検索、あれは自分がまったく理解できない検索エンジンの仕組みの上に成り立っています。ご飯を炊くのもそう。自分がするのはお米を洗ってセットするくらいで、後は放っておけばできあがっている。自分の行為のはずなのに、その大半が自分ではまったく理解できない難しい仕組みの上に成り立っているのって、よくよく考えてみたら不安ですよね!普段機械やAIがやってくれる分、いざというときに自分でやろうとして困ってしまうというということもあると思います。
つまりZ世代は、「自分だけが得られる体験」「人間だからこそできること」を非効率な体験の中に求めているといえます。わざわざレコードで音楽を聴いたり、時間をかけて電車旅をするという“遠回り”の工程の中に、「自分で目の前の物事を理解して、自分がここに存在しているからこそできることを行う」という自分自身の存在意義や自分らしさを確認しているのです。それが効率的な体験の中にはない満足感、安心感を生み出しているといえます。
“非効率=犠牲”の感覚が体験の価値を高める
ここまで読んで、「でもZ世代ってタイパ重視だから効率を気にしてるんじゃないの?」と思われる方もいるのでは。それはその通り。でもタイパ重視で効率に対して高い意識を持っていることが、むしろ非効率な体験の価値を高めているといえるのです。
タイパ重視のZ世代にとって、かけなくて良い時間や手間、お金をかけることは「犠牲」だと感じられます。つまり非効率な体験というのは、あえて犠牲を払ってまでしている行為ということ。だからこそすごく特別な意味を持ってくるわけなんです。ちょっと逆説的ですね(笑)。
でも本来は必要のない非効率という犠牲を払っているからこそ「この犠牲を無駄にしないように楽しもう」とモチベーションが上がる感覚は分かっていただけるのではないでしょうか。それが先ほど述べた、「効率とセットになった非効率な体験に価値がある」ということの理由です。非効率なことに取り組むことでかえってモチベーションがあがり、体験の価値を高められる。それも非効率な体験の持つ重要な意味です。
03
Z世代に向けて「非効率な体験」を生み出す工夫
ここまで、非効率で不便な体験がZ世代にとってどのような価値を持つのかを解説してきました!ではそれを新しい体験価値として提供していくためにはどうすれば良いのでしょうか?
ここからは、Z世代に刺さる「非効率な体験」を生み出すための工夫を考えていきましょう!
「不便益」の概念を理解する
先ほども述べた通り、非効率や不便な体験というのはノスタルジーや懐古趣味と結び付けられがちですが、実はZ世代にとってはもっと深い意味を持っています。そのため感情的な部分への訴求だけでなく、「Z世代が自身の存在価値を高められる体験」というところに注目して体験をデザインしていくことが重要です。
そのときに参考になるのが「不便益」の考え方です。「不便益(benefit of inconvenience)」というのは、京都大学の川上浩司教授を中心に考え出された概念で、読んで字のごとく不便から生み出される益のことを指します。「不便益から得られる益8種」と「益の出やすい不便12種」は以下のように定義されています。
■不便益から得られる益8種
1.能力低下を防ぐ
不便益システム研究所(https://fuben-eki.jp/blog/dailyfuben-eki/2013/12/)
2.上達できる
3.工夫できる
4.安心できる・信頼できる
5.発見できる
6.対象系を理解できる
7.主体性が持てる
8.俺だけ感がある
■益の出やすい不便12種
1.大型にせよ
不便益システム研究所(https://fuben-eki.jp/blog/dailyfuben-eki/2013/12/)
2.操作数を多くせよ
3.時間がかかるようにせよ
4.限定せよ
5.アナログにせよ
6.疲れさせよ
7.操作量を多くせよ
8.情報を減らせ
9.刺激を与えよ
10.危険にせよ
11.無秩序にせよ
12.劣化させよ
不便益から得られる益をみると、どれも「“自分”を介在させることで生じる価値」であることがよくわかります。益の出やすい不便では、どうすれば体験の中に“自分”を介在させられるかがまとめられています。
この2つは非効率な体験を生み出していく上でのいわば「手段(益の出やすい不便12種)」と「目的(不便益から得られる益8種)」の関係。益の出やすい不便12種をみて「なるほど~」とそのまま適用するのではなく、それによってどのような目的を達成したいのか、不便益から得られる益8種と紐づけながら考えることが重要です。逆もしかり。この2つの連関を意識することで、Z世代にとってより価値のある「非効率な体験」を生み出すことができそうです。
成功事例から学ぶ
最近では非効率な体験に着目したさまざまなサービスが生み出されています。どのようなサービスが成功しているのかという事例から、今求められている新しい体験価値を見出してみるのも良いでしょう。
旅くじ
「旅くじ」は格安航空会社(LCC)の「Peach」(ピーチ)を運営するPeach Aviationが提供するサービスです。こちら、何と5,000円で引けるガチャガチャで旅の行き先を決めようという商品なんです!カプセルを開けるまで行き先はわからず、さらに旅先だけではなく行き先でやってもらう「ミッション」も決められているという、よりワクワク感をあおってくれる仕掛けがあります。本来自分で決める旅の行き先をあえてくじで決めるというのは、不便とはまたちょっと違いますが、非効率・非合理的であるといえますよね。
これは不便益から得られる益でいうとまさに「5.発見できる」が当てはまります。予想外の行き先が出るからこそ、どう楽しむかを「3.工夫できる」というポイントもあるかもしれません。益の出やすい不便としては「4.限定せよ」が当てはまります。ガチャガチャという「自分で引き当てた」実感を伴う体験という点では「5.アナログにせよ」も当てはまるかもしれません。
コロナ禍を経て旅行欲が高まっている時期に出てきたサービスという点もヒットの要因といえるでしょう。コロナ禍の旅行サービスといえば「GoToトラベル」を筆頭に割引を行うサービスのイメージがありますが、そこにあえて非効率・非合理的な要素を掛け合わせることで商品・サービスの差別化が図れているという例でもあります。
フィルムカメラアプリ「EE35」
Z世代の間では最近、フィルムカメラやデジタルカメラがブームとなっています。それを取り入れたのがこのフィルムカメラアプリ「EE35」です。
このアプリはフィルム風の写真が撮れるだけでなく、フィルムカメラならではの不便さがあえて盛り込まれた仕様となっています。フィルムをカメラにセットするところから始まり、フィルムの巻き上げをすることで写真撮影ができるようになっているんです!
そしてフィルムカメラと同様、現像するまで写真の確認はできません。そのため空間の暗さを考慮して自分でフラッシュ機能を設定したり、シャッターを切る瞬間にこだわったりと、自分で創意工夫しながら試せる余地があるのが魅力です。
このアプリには、不便から得られる益の「2.上達できる」「3.工夫できる」、益の出やすい不便の「3.時間がかかるようにせよ」「7.操作量を多くせよ」が取り入れられています。制約があるからこそ、工夫をしながらものを生み出したくなる。そんな不便の中からこそ生まれるクリエイティブにフォーカスしたアプリとなっています。
文喫
文喫は「本と出会うための本屋」というコンセプトの入場料制の本屋で、六本木、福岡天神、名古屋に3店舗展開されています。入るだけなら無料が当たり前の本屋で、あえて入場料制を取り入れているところがポイント。かけなくて良い時間や手間、お金をかけるという“犠牲”が本を選ぶモチベーションを高める、非合理な制度だからこそ人の心に働きかける仕組みが取り入れられています。そのモチベーションが「3.工夫できる」「5.発見できる」「7.主体性が持てる」という益をもたらす、新しい形の本屋となっています。
- ・効率的な社会では、自ら考えて動く余白が失われている
- ・自分で工夫する余地のある非効率な体験が求められている
- ・効率性から離れることで、新たな発見や予想していなかった瞬間に立ち会える
- ・非効率だからこそモチベーションが生まれる
- ・「体験の中に“自分”を介在させる」ことが非効率な体験の必要条件
効率的な社会を生きているからこそ、非効率な体験に価値を見出すZ世代。ただし、もちろん効率的で合理的な物事をただ避けているわけではありません。
Z世代は情報のインプットはタイパ重視、アウトプットや体験は手間重視な傾向があるように感じます。
そのバランスをうまく見極め、価値のある“非効率”を生み出していくことが、Z世代が求める新しい体験をデザインしていくことにつながるのではないでしょうか。
名古屋で「Z世代向けSNSマーケティング」するならトガル株式会社へ
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企画・構成・編集:みーちゃん/執筆:西村