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TOP > CONTENTS INDEX > SNSやWebを活用した愛知県へのインバウンド集客
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コロナ禍を経て、全国的に訪日外国人旅行客数はV字回復しており、国内の経済にも非常に大きな影響を与えています。
訪日外国人旅行客の多くは、現地で自由に使えるほど日本語を勉強してくるわけではありません。しかし今や現地の言葉を話せなくても、スマートフォンを用いて情報収集や言語翻訳を自由自在に行ながら旅行を楽しむのが当たり前。実際に私自身も9か月間海外インターン、2か月間東南アジア周遊を経験しましたが、現地のSNS情報やWeb情報をもとに、各国のグルメや観光を存分に楽しみました。
トガルのある愛知県内でもインバウンド需要は増しており、東アジアを中心に買い物や宿泊、飲食と多様な消費が生まれています。愛知県が日本語を話せない外国人旅行客に選ばれる場所となるために、どのような工夫をしたらよいのでしょうか。今回はWeb・SNSを活用した情報発信の工夫や、“インバウンドフレンドリー”な店舗のポイントについて解説していきます。
この記事は、愛知県でインバウンド集客・地域活性化事業に取り組むトガルがお伝えします。
「インバウンド」という言葉は、政府が観光立国政策を宣言した2000年代頃に登場し、2010年代以降に本格的に世間に浸透し始めました。
インバウンド需要を統計で見てみると、2010年代以降、順調に訪日外国人旅行者の数は延伸していたものの、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年から2022年は苦戦を強いられています。
その後2022年から徐々に回復傾向を示し、2023年にはコロナ禍前の2019年の約8割まで回復。2024年には東アジアだけでなく幅広い国からの観光客が増加し、年間3,687万人と過去最高を記録しています。

訪日外国人旅行者の増加に伴い、国内での消費額も増加。2024年には訪日外国人旅行客の消費額が8.1億円と、国内の輸出額において自動車に次ぐ2位に位置付けています。このことからも、インバウンド需要が日本経済において重要な意味を持っていることが分かります。

愛知県への訪日外国人旅行者数は、全国的な動向と同様、コロナ禍で落ち込んでいるものの、2023年からV字回復しています。それに伴い消費額もコロナ禍前と同等程度に回復しています。
一方で外国人旅行者の都道府県別訪問率(外国人旅行者全体の内、各都道府県を訪れた人の割合)を見ると、関東圏・関西圏と大きく開きがあるのが特徴的。中部国際空港を中心にアクセスは良いものの、観光の「目的地」としての訴求力に課題があることが伺えます。

愛知県のインバウンドの状況を国籍別にみると、韓国、中国、台湾、香港といった東アジア圏が大半を占めています。タイや、他の東南アジア諸国が東アジアに続いて多くなっています。

さらに愛知県での消費単価、平均泊数を主な国・地域別で見ると、香港が最も消費単価が高く、続いて中国・台湾が上位に入っています。香港や台湾は平均泊数が比較的短いものの、一人当たりの支出額は多く、今後の伸び代が大きいといえます。
一方、韓国は短い泊数で消費単価も比較的少ない傾向に。距離の近さから気軽に買い物や観光目的で訪れている人が多いことが伺えます。
これらの傾向から、短期滞在でも高い消費が見込める地域へのプロモーション強化が、今後の経済効果拡大につながると考えられます。
※消費単価…「旅行消費単価」は「旅行中支出」の平均値であり、パッケージツアー参加費に含まれる日本国内支出や日本の航空会社及び船舶会社に支払われる国際旅客運賃を含まない。
| 消費単価 | 平均泊数 | |
| 韓国 | 72,006 | 3.7 |
| 中国 | 99,277 | 4.2 |
| 台湾 | 83,659 | 2.8 |
| 香港 | 123,897 | 3.3 |
| タイ | 70,058 | 3.0 |
| 東南アジア | 68,747 | 14.7 |
出典:インバウンド消費動向調査(旧 訪日外国人消費動向調査) 結果のデータを元にトガルが作成
(https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/565125.pdf)
ここまで見てきたように、インバウンド需要は全国、愛知県で年々高まってきており、地域の小売店や飲食店はそんなインバウンド需要の受け皿となっています。インバウンドは地域の小売店や飲食店の成長、ひいては地域経済の活性化の“起爆剤”としての重要な役割を担っていることがわかります。
地域の小売店や飲食店がインバウンド集客を行うことの具体的なメリットは大きく2つあります。1つは日本の少子高齢化が進んでいく中で、新たな消費需要を取り込んで売上・利益を生み出せること(下部図左)。そしてもう1つが、インバウンド需要に対応することで新しいサービスや雇用が生まれ、事業の成長機会につながること(下部図右)です。つまり単に売上を上げるだけでなく中長期的な成長のために、インバウンド集客は欠かせない戦略だといえるのです。

ここからはどのようにインバウンド集客を進めていくべきか、愛知県のインバウンドの現状も踏まえ、「SNS」「MEO」「店舗づくり」の3つの観点からポイントを紹介します。
1つ目はSNS活用について。「訪日外国人の消費動向調査」によると、外国人旅行者の情報源は「動画サイト」「SNS」の2つが高いことがわかります。SNSの中でも特にInstagramやTikTokのように、言語が通じなくても魅力を伝えられる写真・動画で訴求していくことがインバウンド集客の鍵となっています。

先述の結果からもわかるように、愛知県はアクセスの良さというメリットがあるものの、「目的地」として選ばれるための訴求力が課題となっています。
そこでSNSでの発信が重要となります。SNSの強みは、言語を介さずに写真や動画で情報を伝えられること。特に動画で「ここでしかできない体験」の臨場感や没入感を伝え、「同じ場所に行って同じ体験をしたい」という興味を喚起することが「選ばれる」場所になるための重要なポイントとなります。
また言語が通じない知らない土地に行く際には、安心感の醸成も大切です。わかりやすい店舗外観の写真や店内の様子なども載せ、初来店への不安を軽減することも意識しましょう。
ターゲットとする国を定め、その国の言語や文化に合わせた発信を行うことが重要です。SNSの場合はすべてを翻訳しなくても、ハッシュタグを多言語化するだけで集客が見込めます。「#nagoya」「#japan_trip」「#sushi」など関連する英語のハッシュタグをつけ、外国人旅行者の検索流入を高めていきましょう。英語だけでなく、実際に利用の多い国を踏まえてその言語のハッシュタグを加えるとより集客に効果が見込めます。
またよく活用されるSNSは国によって異なります。ターゲットとなる国のSNS活用実態を踏まえ、アクティブユーザーの多いSNSでの発信を行うこともポイントです。

外国人観光客には口コミを参考にする人が多くいます。特にSNSにおけるユーザー視点の口コミは信頼されやすい傾向にあります。私自身も海外でのお店選びには、日本人のSNSでの口コミを参考にしていました。
口コミは、多言語化に対応したハッシュタグキャンペーンなどで効果的に増やすことができます。加えて丁寧なサービス提供や外国語に対応できるスタッフの配置、分かりやすいPOPの設置などの工夫によって、自然に口コミが生まれる店舗づくりにつながります。
外国人旅行者にとって、観光の際にはGoogleマップの活用が欠かせません。Googleマップのメリットは、一部の国を除いた200超の国と地域で利用できること。地図機能だけでなく投稿機能、自動翻訳機能も備えているため、場所を検索するだけでなく、他者が投稿した口コミの閲覧、自身の口コミ投稿ができるのも魅力です。
私もタイのチェンマイに行った際、Googleマップを活用して「カオソーイ」という有名なタイ料理を食べられる店舗を探しました。Googleマップに投稿された口コミや料理・店舗の写真を見て選んだ店舗で食べたカオソーイの味は、今でも忘れられません。
Googleマップなどの地図検索結果で上位表示させるための施策を「MEO」と言います。ここではインバウンド需要を意識した上でMEO対策を強化のポイントをご紹介します。(MEO=Map Engine Optimization)
まずは基本的なMEO対策として、営業時間、定休日、住所、電話番号など正確な店舗情報の登録・整備を行い、Googleビジネスプロフィールを最適化しましょう。
この際、ビジネス名やメニューなどの情報を多言語化登録しておくのがおすすめ。Googleでは自動翻訳も可能ですが、自動翻訳の場合正しく表記されないことがあります。英語、中国語、韓国語など主要言語の翻訳を併記しておくことで、実際の来店につながりやすくなります。
インバウンドに特化した内容ではないものの、写真や動画の充実と更新頻度は基本的なMEO施策の1つなので必ず押さえておく必要があります。なるべく高画質で、新メニューの情報などを高頻度で投稿することが上位表示のポイントです。
SNSのところでも述べたように、第三者の口コミは外国人旅行者にとって重要な情報源です。特にGoogleマップでの口コミを参考にする外国人旅行者は少なくありません。そのため、店舗に訪れた外国人旅行者にはなるべくGoogleマップへの口コミの投稿をお願いし、多言語での口コミを増やしていくようにしましょう。
口コミをお願いする方法はいろいろありますが、おすすめなのは直接リンクできるQRコードです。店舗の目立つ位置に配置したり、QRコードの載っているレビューカードをレジで配布するなど、積極的に口コミの投稿を促していきましょう。

「外国人旅行者でも利用しやすい」と思ってもらえるような情報をGoogleビジネスプロフィールに積極的に登録しましょう。特に支払い方法は重要です。なるべく多くの国の人が利用できるキャッシュレス決済を導入することはもちろん、決済情報をビジネスプロフィールに登録することで、外国人旅行者にとっての安心材料となります。
他にも対応言語や禁煙・喫煙の有無、ビーガンメニューの有無など、ターゲットとなる国の人が気になるであろう情報を先回りして表示しておきましょう。
ここまではSNSやGoogleマップなど、Web上の対策をお伝えしてきました。しかし何よりも重要なのが、実際に利用してもらう際の店舗での受け入れ体制です。外国人旅行者が安心して利用できる“インバウンドフレンドリー”な店舗となっていることは、オーガニックな良い口コミを生む重要なきっかけとなります。ここでは実際の店舗づくりのヒントをお伝えします。
外国人旅行者が実際に店舗を訪れる際に最も不安を感じるのが、言語の問題です。一番丁寧な対応は、多言語に対応したスタッフの配置によるきめ細やかなコミュニケーション。メニューの説明や注文の仕方、口コミ投稿のお願いなどを丁寧に伝えられることは、サービス向上の上でも大きなメリットです。
ただしさまざまな言語に精通したスタッフを配置することは簡単ではないでしょう。会話による案内が難しい場合でも不安にさせることがないよう、看板や地図、メニュー、値札などの多言語化を進めることが大切です。多言語化に対応したタブレットによる注文を導入するなど、スムーズなオペレーションを整えることもポイントです。
多言語化対応が難しい場合は、メニューで使用する日本語の書体を読みやすくすることから始めてみましょう。外国人旅行者がスマートフォンのカメラを用いて翻訳するシチュエーションに備えることができます。

海外旅行中、「日本語のメニューがあったけれど、ちょっとニュアンスが違っていた」という経験をした人も多いのではないでしょうか。多言語化も重要ですが、ただ翻訳しただけでは実際には内容の理解が難しい場合があります。
そこで取り入れたいのが、写真やイラストを用いたノンバーバル(言語を用いない)コミュニケーションです。メニュー表に写真を追加すれば、翻訳を用いることなく指差しでスムーズな注文が可能となります。国や文化を問わず視覚的に理解しやすいイラスト・ピクトグラムを併用すれば、注意事項も伝えやすくなります。日本語の文章が読めなくても、意味や内容を理解することができるよう、意識的に店舗内に視覚的な表現を増やす工夫をしましょう。

レゴランドやジブリパークなど、近年ではインバウンドの注目度も高まっている愛知県。外国人旅行者から選ばれる場所となるために、「ここだからこそできる体験」の魅力の発信・店舗での受け入れ体制の整備を進めていきましょう。
一方で、外国人旅行者は「日本らしさ」を求めて日本に来ているという観点も忘れてはいけません。外国人旅行者が快適に過ごせる工夫を取り入れつつ、その店らしさ・地域らしさ・日本らしさの魅力を失わないように注意しましょう。
企画・構成・編集:しん/執筆:西村