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住民主体のまちづくりをデザインする、“コミュニティデザイン”の役割

2025.09.16
SHEARE

少子高齢化、人口減少が進み、行政だけでは対応しきれない課題が増えていく中で、地域コミュニティの役割が期待されています。地域コミュニティを活性化させるためには住民の力が欠かせません。

まちづくりの分野における“コミュニティデザイン”は、地域課題を住民にとって「自分ごと」にし、住民自身が主体的に地域に関わる仕組みをつくる手法です。今回は現代のまちづくりに求められるコミュニティデザインの役割を紐解いて解説していきます。また、トガル株式会社も参画している「名古屋駅西」エリアのコミュニティデザインについてもご紹介します。
この記事は、愛知県で地域活性化事業に取り組むトガルがお伝えします。

コミュニティデザインとは、デザインの力を通じて、コミュニティの課題解決力を高める取り組みのこと。近年、まちづくりや都市計画の分野で注目を集めています。

その起源は実は古く、1960年代に遡ります。ニュータウン開発が進んでいた当時、全国から集まった居住者同士の結びつきを深められような「場」をデザインすることを指して、この言葉が使われていました。

しかし近年のコミュニティデザインは、物理的な「場」のデザインにとどまらず、イベントやワークショップなど、人と人がつながる「仕組み」のデザインへと進化しています。地域の人間関係の希薄化や、それに起因する地域コミュニティの機能低下が進む今、地域の在り方を見直し、地域コミュニティを活性化させるための手法としてコミュニティデザインが活用される事例が増えています。

コミュニティデザインにはさまざまな手法があり、決まった正解の形があるわけではありません。しかし共通するゴールは、コミュニティデザインを通じて「地域住民同士が主体的に課題解決できるコミュニティをつくる」ということです。つまりコミュニティデザインとは、地域住民が協働で活動するためのプロセスをデザインする手法だといえます。

住民同士が自然と助け合い、支え合うことができる地域コミュニティがあることは、安心・安全で持続可能なまちづくりの上で非常に重要な意味を持ちます。地域コミュニティは、地域の子どもの見守りや災害時の助け合いなど、自分や公的機関の支援だけではまかなえない多くの役割を担っています。また地域の中で賑わいや交流が増えることで地域の活性化につながり、持続可能なまちづくりにつながるのもポイント。さらに行政側の視点から見ると、公的支援で対応しきれない部分を地域コミュニティが解決できる仕組みがあることで、社会保障費の増大が抑えられるというメリットもあります。

コミュニティデザインにはその地域に合った形で、住民が交流できる場や機会を用意し、運営していくことが求められます。将来的に“自走”できるコミュニティを見据え、住民の意識を単なる「参加」から「主体」に転換していくために、いかに地域のことを「自分ゴト」化できるようにデザインしていくかが鍵となります。

コミュニティデザインの成功は、住民一人ひとりの参加と協力によって成し遂げられます。柔軟な発想と協働作業を通じて、地域の多様なニーズに応え、住民が誇りを持てるまちづくりが実現できます。

ただしそれは交流の場や機会を用意したからといって、自然発生的に生まれるものではありません。だからこそ、コミュニティデザインを行う人(コミュニティデザイナーとも呼ばれる)が介在する意味を持ちます。

コミュニティデザイナーは多くの場合、専門家として地域住民以外の人がその役割を担いますが、地域内の人が行う場合もあります。いずれの場合も、大切となるのは「コミュニケーション能力」です。多様な価値観やニーズを持つ住民同士の信頼関係と持続可能な関係性を構築し、意図的に住民の主体性を引き出していくための、高度なコミュニケーション能力が求められます。

コミュニケーションのポイントは大きく2つ。地域の文化や歴史の尊重という「地域の内側からの視点」と、ときには第三者的にアドバイスを行う「地域の外側からの視点」です。地域に寄り添い、地域ならではの特性や課題感を引き出すとともに、それを俯瞰で見てコーディネートしていくことで、新しい未来につながる解決策を住民主体で導き出すサポートをすることが重要です。

「『選ばれる町』をつくる」を目標に、住まい・仕事・つながりの3つをテーマに据えてさまざまなプロジェクトを実施している事例です。特に「楽しさなくして参加なし」という考えを大切に、それぞれのプロジェクトで住民参画を促しながら、新しい活動を多数生み出しています。

概要
実施内容:ヒアリング、地方創生スクール、若者ワークショップ、合宿、視察、若手職員研修
策定フロー:課題のループ図作成→目的設定→プロジェクト考案

プロジェクト考案過程

住民が主体となった「21世紀の暮らし方研究所」を立ち上げ、「住まい・仕事・つながり」の3つのテーマからさまざまな検討を実施。ブランディングワークショップや空き家ツアーを通じて、地域の魅力を再発見する取り組みを進めています。これにより、住民が主体的に地域の課題を捉え、解決策を共に考える文化が根付いてきました。

阿武町では、住民が自らのアイディアを出し合い、プロジェクトを通じて実際に形にしていくことで、地域の活性化を図っています。若者の参加を促すためのワークショップや合宿を開催し、地域の未来を担う人材の育成に力を入れているのも特徴です。

実際に、住民はどのような解決策を考え形にしているのでしょうか。阿武町において行われているプロジェクト例を一部ご紹介します。

プロジェクト例1
出典:『阿武町版総合戦略「選ばれる町」をつくる』を元にトガルが作成
https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/ccrc/h300824_siryou1.pdf

賃貸不動産に思い出の付加価値
目的:住まいの多様化、空き家活用
プロジェクト名:思い出不動産プロジェクト
内容:住民が対象不動産にまつわる思い出のエピソードをコンテンツとして付加し、それを地域の新たな魅力とする

筆者的ポイント:所有者住民の想いを協力者住民が情報発信している点が住民主体であり、住民間及び入居者でコミュニティが広る。

プロジェクト例2
出典:『阿武町版総合戦略「選ばれる町」をつくる』を元にトガルが作成
https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/ccrc/h300824_siryou1.pdf

空き家活用でつながり創出
目的:多様なつながりを育む、交流拠点創出
プロジェクト:TsuQuRoプロジェクト
内容:住民が行政や専門職の方と協力しながら、空き家のD I Yを行い交流拠点の場をつくる

筆者的ポイント:DIYを行い交流場所を作る過程から運営の過程まで、住民同士が協力し合うことで交流拠点に愛着が生まれ、より多様なつながりやコミュニティが生まれる。

住民は、自らの手で地域の課題を解決するために、積極的に参加しています。これらのプロジェクトにより、地域のコミュニティがより強固になっています。住民が主体的に取り組むことで新しい価値が生み出され、地域の活性化が進んでいます。

こうしたコミュニティデザインの事例は、他の地域にも広がりを見せています。地域の特性や住民のニーズに合わせた柔軟なアプローチが、住民主体のまちづくりを実現する鍵となっています。 住民が中心となり、地域の課題に取り組むことで、持続可能なまちづくりが可能になるのです。阿武町の取り組みは、地域社会における新しい価値創造のモデルケースとして注目されています。

従来のコミュニティデザインはリアルな場での関係づくりを基本としていましたが、近年ではデジタル技術を取り入れた“まちづくりDX”も加速しています。

その一例が、兵庫県川西市の事例です。川西市ではまちの最上位計画である第6次川西市総合計画の策定にあたり、より多様な市民の声を反映するために、共創まちづくりプラットフォーム「my groove かわにし」を導入しました。このオンラインプラットフォームでは、市民がスマートフォンを使って簡単に意見を投稿できるほか、他の投稿にリアクションをつけるなど、計画策定の進捗情報をリアルタイムで確認することができるのが特徴です。

出典:PR TIMES『兵庫県川西市で、共創まちづくりプラットフォーム「my grooveかわにし」を導入。』
「my groove かわにし」の利用イメージを元にトガルが作成
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000091790.html

筆者的ポイント:スマホさえあれば手軽にまちづくりに参加でき、意見が反映されていくことで、まちづくりに対して主体的になれるきっかけづくりがされている。

従来のまちづくりでは会議など対面での意見収集が主流であり、仕事やライフスタイルの都合からなかなか参加の間口が広がらないという課題がありました。しかし「my groove かわにし」の導入により、これまでまちづくりに触れてこなかった層にも情報を届け、まちづくりを自分事化し主体性をもつ可能性を広げています。

このプラットフォームは、スペイン発のオープンソース「Decidim」をベースにカスタマイズされており、川西市以外にも全国で展開が進んでいます。デジタルの力を活用しながら、市民一人ひとりが地域の未来に関与できる「関係性のデザイン」を行うプロセスを通じて自走的なまちづくりの土壌を作る「関係のインフラ」として機能しています。

最後に、私たちトガル株式会社が行うコミュニティデザインの取り組みを紹介します。トガルでは名古屋駅西エリアなど中村区を中心に地域活性化を目的とした活動を行っています。リニア中央新幹線の開通を控え、さらなる発展が期待される名古屋駅西エリアにおいて、多くの来場者で賑わい、地域の魅力向上に大きく貢献できるようコミュニティデザインを活用しています。

「名古屋駅西エリア」での具体的な取り組み
・駅西の魅力を伝えるInstagram運用
・主体的な「地域の魅力発信」の指導
・名古屋太閤通口まちづくり協議会への参加

トガルが運用するInstagramの「駅西さんぽ」は、地域の飲食店や商店と連携し、駅西の魅力を伝えるための取り組みです。これにより、地域の交流の場の提供や地域外からの訪問者を呼び込み、地域の活性化に貢献しています。

さらに地域のアイデンティティを反映したキーホルダーやフリーペーパーの作成や特産品の開発など、地域住民や訪問者がその魅力を再発見できるような取り組みを実施しています。

地域の主体性を引き出すきっかけとして、地域や店舗を対象にSNS活用のノウハウを伝える講演会を行っています。これにより、店舗自らが地域の魅力を発信し、地域の情報をより多くの人々に届ける体制づくりをサポートしています。

名古屋駅西エリアの店舗を対象とした「駅西SNS相談会」を開催

トガルは名古屋太閤通口まちづくり協議会に参加し、行政や地域の商店、住民と共にまちづくりに積極的に取り組んでいます。

名古屋太閤通口まちづくり協議会では、定例会 や「町の宝人」「大人の遠足」というイベントを通じて、まちづくりに興味を持つ人々を積極的に呼び込み、地域の活性化を図っています。周辺学区の連絡協議会や商店街との連携も強化し、誇りを持てるまちづくりを進めています。

また、トガルではまちづくり協議会の活動とは別に、地域の企業として地域の大学との産学連携プロジェクトを立ち上げ、地域の文化を次世代に伝える活動を進めています。このプロジェクトでは駅西の歴史と伝説が息づく甘酒を使って特産品をつくり、さらにその歴史を紙芝居にして小学校で実演しています。これによって幼い頃から地域への愛着を育み、未来の担い手としての可能性を広げるのが狙いです。

「おいせ川あま酒プロジェクト」 牧野小学校で紙芝居を発表
「住民主体のまちづくりをデザインする、“コミュニティデザイン」5つのポイント
  • 単なる物理的なデザインではなく、人と人がつながる「仕組み」をデザインする
  • 多様な価値観を持つ地域住民を有機的につなげていくのがコミュニティデザインの役割
  • いかに住人にとってまちづくりを“自分ゴト化”できるかが鍵
  • 「住民主体のまちづくり」が地域の持続可能な発展に寄与する
  • 参加の間口を広げるため、デジタル技術を取り入れた手法も増えている

コミュニティデザインは住民が誇りを持って地域に関わるきっかけをつくり、主体性を引き出すことで、持続可能で安心・安全なまちづくりを実現する取り組みです。コミュニティデザインによって住民主体のまちづくりのシステムを構築することは、地域の未来を切り拓く力となるのです。

トガルがまちづくりに関わっている名古屋駅西エリアも、大きな魅力と未来への可能性を有しています。トガル自身、地域一体となって名古屋駅西エリアの魅力向上と活性化に貢献できるよう尽力していきます。

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トガル株式会社 企画編集担当(長期インターン生)
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トガル株式会社 企画編集担当(長期インターン生)
大学で建築デザイン・まちづくりについて勉強中。
まちづくりの視点を取り入れ、コミュニティの新たな繋がりを創出する。

企画・構成・編集:ぴょん/執筆:西村

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